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デザイナーに必要なこととは? newn上谷真之 × BCGDV花城泰夢

BCG Digital Ventures(以下、BCGDV) のPartner & Director, Experience Design・花城泰夢がゲストを迎え、デザインに関するトークセッションを行うシリーズ企画「DESIGN MEETUP」。これまでに、メルペイの鈴木伸緒さん、Takramの河原香奈子さん、クックパッドの宇野雄さんをお迎えし、デザイン談義を行いました。

今回のゲストは、上谷真之さん。newnのデザイナーであり、ご自身でもD&Experimentを立ち上げ、企業のデザイン支援やデザイナー育成を行っています。2020年11月にnewnに入社したばかりという上谷さんに、ご自身のキャリアからデザイナーの採用・育成まで、幅広くお話を伺いました。今回はその様子をレポートします。

プロフィール

上谷 真之(うえたに・まさゆき)

制作会社からキャリアをスタートし、その後いくつかのスタートアップでの立ち上げ経験を経て、2017年に自ら起業。2020年より株式会社newnにデザイナーとして参画し、その傍らでD&Experimentという屋号でデザインを軸とした事業支援や後進デザイナーの育成を行う。

花城 泰夢(はなしろ・たいむ)

BCG Digital Ventures, Partner & Director, Experience Design。2016年4月、BCG Digital Ventures Tokyo の立ち上げから参画。東京拠点のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。

ーー デザインから、コーディングまで

花城:まずは上谷さんの現在の活動、newnに入社したきっかけについて教えていただけますか?

上谷:newnでは、アプリのプロダクト責任者とデザイナーをやっています。入社前から新規事業の立ち上げを手伝っていたので、1年近く関わっていることになりますね。newnにジョインしたのは、プロダクトづくりに加えて組織づくりや新規事業の立ち上げ、デザイナー育成のようなマクロな部分に関わりたいと思ったから。

花城:なるほど。上谷さん個人としては、過去にどんなサービスを手掛けているんですか?

上谷:そうですね、たとえば「YOUTRUST」というHRサービス。信頼できる友人や、友人の友人からオファーが届き、副業や転職先を探せるキャリアSNSです。外部パートナーとして、リブランディングを担当しました。それからSmartHRの子会社として、確定拠出型年金事業の「bowl」も立ち上げました。

花城:確定拠出年金……レギュレーションまわりが大変そうですね。

上谷:想像の70倍くらい大変でした(笑)。保険であれば保険業法という法律があったり、確定拠出年金には確定拠出年金法があったり。省庁にも出入りして、保険商品を売るための資格も取りました。法律をしっかり遵守しながらも、新しいものを生み出していかなければいけないのが苦労しましたね。

花城:役割はデザイナーだったんですか?

上谷:一応そうです。とはいえスタートアップなので、デザインもフロントエンドのコーディングもやりました。けんすう(古川健介)さんの「アル」※の立ち上げを手伝ったときも、デザインとフロントエンド実装を両方やったんですけど。(※アル株式会社運営のマンガコミュニティサービス)

花城:おおお、ふつうなら二人必要なところを、上谷さん一人でできてしまうんですね。

上谷:その分、一つの分野に対する“深さ”は足りていないかもしれないですが。これまでは、インターネットサービスの立ち上げに携わることがかなり多いキャリアでした。

花城:いつもどうやって新しい案件に出会うんですか?

上谷:知り合いのつながりが圧倒的に多いですね。飲みに行ったときに、新しい事業について話してそのまま手伝うこともあるし、その方から紹介してもらうこともあるし。みんなに生かされてるな~と思いますね。

花城:最近は、noteも始められたんですよね?

上谷:普段テキストはあまり書かないんですけど、始めてみようと思って。最近は「マイクロジョブを用いた体験設計」というnoteを書きました。僕がデザインをする上で大きな影響を受けている Fogg Behavior Model について書いたものです。

マイクロジョブを用いた体験設計 https://note.com/uetanimasayuki/n/n2c4d06f294aa

―― 権限と予算。いいデザイン組織をつくるための条件

花城:今日は「デザイン組織」と「デザイナー育成」の二軸で話していけたらと思います。僕自身も最近、コーポレートパートナー(クライアント企業)の社内にインハウスデザイナーの部署を立ち上げる仕事をしたこともあって、組織への関心が高まっています。上谷さんは、6年ほど前にnanapiにいた頃から「個のデザインより、チームのデザイン」だと言っていましたよね。どうして「組織のデザイン」への意識が芽生えたんですか?

上谷:先ほども、一つの分野を深く追求するタイプではないという話をしましたが、もともとマクロにデザインや事業やプロダクトを眺める癖があったんだと思います。nanapiにいたとき、組織のフェーズ的にも、採用や育成について考え始めるタイミングだったこともあります。

ただ、「いい組織とは」ってケースバイケースですよね。だから普遍を見つけた気になっても、その先にもまた別のものが存在するものだと考えています。

花城:いいデザイン組織の条件って、見出せていたりしますか?

上谷:いや、正直分からないんですよね(笑)。でも、デザイナーが経営層とどれくらい距離が近いかは、結構だいじですよね。デザインチームに権限を委譲すること。採用権があって、決裁権があって。ちょっと暴論かもしれないけど、権限があって予算があれば、幅が広がるんですよ。選択肢が増える。

花城:なるほど。確かに僕たちBCGDVも、ボストン コンサルティング グループ(BCG)と共に戦略の側からクライアントに提案をすることも多いので、クライアントチームがいつも経営陣と近いんですよね。

これまでに苦労した経験って、何がありますか?

上谷:デザインマネージャーなら全員言うと思うんですけど、「採用」と「評価」ですね。苦労したというか、「めちゃくちゃ上手くいった」経験がないという感じなのですが。

花城:具体的に、採用のつまづきってどんなものがあるんですか?

上谷:当時のnanapiは、コーポレートブランディングが弱かったんですよ。応募者の母数も少ないなかで、誰かを選ばざるをえないって世界で。それが大変でしたね。ファネルの一番手前、アトラクトの段階からもうしんどい、みたいな。スタートアップの人たちもよく言ってますよね。「デザイナーどこにいるの?」って。

花城:僕もときどき相談を受けますけど、話を聞いていると、募集要項が厳しすぎることがありますよね。「そんなスーパースターいないよ」って。

上谷:たしかに。条件を全部満たしているデザイナーなんて、日本に50人くらいしかいないんじゃないかな(笑)。そんな確率を狙うなんて、逆に仕事としてどうなのって思いますよね。

―― 木を見て、森を見る。デザイナーに必要なこと

花城:次は、デザイナーの育成について。上谷さんは、社外のデザイナーのメンタリングもやっているんですよね? どうしてやろうと思ったんですか?

上谷:デザイナー業界全体の課題として、ビジネスの場でバリバリに立ち回れるデザイナーって少ないよね、と前々から思っていて。僕はずっと事業会社にいたので、これまで業界全体の課題への直接的なアプローチが全然できていなかったんです。自分でも何かしたいと思ったときに、デザインスクールのような教育事業も選択肢に挙がりますが、育成をビジネスにするってすごく難しいことですよね。いつかできたらという思いはありますが、まずは自分がやれることからと、個人でメンタリングを始めました。

花城:具体的には、どんなことを伝えているんですか?

上谷:コミュニティの形をとっているので、デザイン1年目という人もいれば、最近会社を設立したという人もいて。それぞれの経験やキャリアの希望を聞きながら、壁打ちをして方向性を決めていきます。

花城:オーダーメイドなんですね。1年ほどやってみてどうですか?

上谷:大変ですね。当たり前ですが、人の成長は、時間がかかるなと。コンテンツは作れるようになっても、その人のスタンス・価値観がアップデートできないと、僕がいる意味がないと思うんですよね。「HOW」ではなくて、「WHY」のほうを濃く伝えるようにしています。

そもそも「人を育てる」っておこがましいスタンスだと思っていて。一人ひとりみんな違うのに、育成に必勝法なんてないですよね。だから時間はかかっても、本人が自分で気付くために見守って、背中を押す人でありたいです。

花城:「HOW」を伝える機会もあると思うんですけど、小手先のテクニックではなくて、ロジックの考え方を教えているんですか?

上谷:僕はやっぱりデザインを考える上では、思考の「幅」と視座の「高さ」が重要だと思うんです。よく「視座を移動する」という表現を使うんですけど、「木を見て森を見る」ことができると、すごくレバレッジが効くと思います。

こないだも2年目のデザイナーに「世の中にあるビジネスの事業モデルをトレースして、PL引いてきて」って宿題を出したんです。正しくなくて、全然いいんですよ。自分で調べて、全体感を掴めるようになることが大切なんです。

花城:すごい。全然想像していた宿題と違いました(笑)。

上谷:でも、「バナー案100個出して!」 みたいなこともやりますけどね。抽象度の高い話ばかりして、手を動かさないのは問題だと思うので。

花城:バナーを100個やりつつ、PLを引く。すごいですね。

参加者からの質問タイム

―― (評価に関して)アウトプットのクオリティも個人のスキルも、定量化が難しいと思いますが、定量的に捉えているのか、定性的に掴んでいるのか、どんなバランスにしていますか?

上谷:僕はむりやり定量化しようとして、失敗したタイプです。デザインの定量化ってできる部分もあると思うじゃないですか。でも今考えると、どう考えてもこじつけなんですよね(笑)。その後は定性に振り切りました。すると属人化するし、性善説運用みたいになるんです。

だから会社ごとに「うちの理想のデザイナーは、こういうスキルセットがあって、こういう思想で、こういうマインドの人」というふうに明文化しちゃうのも手かな。抽象度が高い項目ばかりだと、うまくいくイメージが湧きづらいですね。評価って最終的には主観。だから定量でさえ確実な基準ではなくなるんですよね。

花城:BCGDVでは、デザイナーが個人のスキルをセルフアセスできるように、UIデザインのスキル、ブランディング、インタラクションといった幾つかのテクニカルコンピテンシーが定められています。各項目を自己評価してもらい、今後目指していきたい方向性も書いてもらう。それをチャートにして、理想と現状をすり合わせる、という方法をとっています。


―― 組織の中に一人しかデザイナーがいない状況でどうやってスキルを磨くか、組織を考えていくのかをお聞きしたいです。

上谷:スキルを磨くには、大量にインプットして、大量にアウトプットするしかないかもしれない。とにかくイケてる人をたくさん見て、たくさん真似をする。あとは初めにも言いましたが、僕はつながりに生かされてきたので、横のつながりは持つことをオススメしたいですね。人とつながることで気付きを得たり、刺激を受けたりできるので。独力でストイックに成長しきれる人なんて、ほとんど居ないと思います。

―― デザイン組織の中で、さまざまなスキルセットを持った人達が共通で持っておくべき認識はありますか? チームの中にクリエイティブ初心者が加入したことで、今後どのように一緒にスキルアップをして行こうか悩んでいます。

上谷:組織をつくるときは、根幹にある思想を言語化することは大切ですよね。もう少し具体的に言うと、「やること」「やらないこと」「かっこいいこと」「ださいこと」を言語化して、共通認識を持つ。

花城:デザイナーズプリンシプルみたいな。

上谷:そうそう。その次には、うちではこういうデザイナーが「いいデザイナー」ですと、ペルソナのようなものをつくる。今はデザイナーの定義が多様化しているので、共通の理想像が定まっていないと、目指す方向性も分からなくなってしまいますよね。

花城:僕たち、プロジェクトを始めるときは毎回「チームキャンバス」というのをつくるんです。その期間で達成したいゴールや、希望するワークノーム(働き方)をポストイットで出し合うんです。これ、けっこうオススメです。

上谷:そうやって全員フェアに「みんなで考えましょう」と始めたほうが、チームビルディングの観点からも良さそうですね。


―― お二人から見て、事業に対してバリューを出しているデザイナーに、共通のスキルやマインドセットなどがあれば伺いたいです。

上谷:難しいですね……。今いろんな人の顔が浮かんでいるんですけど、バラバラなんですよね。やっぱり経営的視点、引きの視点があることですかね。

花城:僕は、上谷さんも含めて、これまでの4名のゲストに共通しているのは、圧倒的スピードだと思いますね。手を動かして、プロトタイプにまで持っていく速さがすごい。

上谷:なるほど。スピードって視座とも関連があると思っていて。デザインを一つの要素として見るって、客観性がないとできないですよね。それができると、いらないものを捨てられるんですよね。その結果、スピードが上がる。手が早いというか、見極めの質とスピードが速いのかもしれないですね。

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