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【レシピ公開中】ITエンジニアが本気でビールをつくってみた——Power Platform × Azureでビール醸造

デジタルトランスフォーメーションやイノベーション、IoT…。
よく聞く言葉だけれども、自分たちの生活には直接関係ないし、一部の大企業が取り組めば良いことなのでは?
そんな風に心の奥底で感じている方も多いのではないでしょうか。

しかし本当の意味で、人々の生活に直結するようなデジタルイノベーションはないのだろうか?
こんな着想から、アバナード関西で(勝手に)立ち上がったプロジェクトが、テクノロジーを活用したビール作り。その名も、「TECHBEER(テックビール)」です。

「DXを美味しくしてみよう!」
「リアルに体験できるDXをつくろう!」
と始まったこのプロジェクト、実際の味とそこから得られた成果とは…?

発案者であり開発者の、アバナード関西に所属する杉本 礼彦さんに、TECHBEERの作り方と、その思いを聞かせてもらいました。

杉本 礼彦(すぎもと よしひこ)/シニアディレクター
専門学校を卒業後、ソフトウェアエンジニアの道へ進み、30歳で株式会社ブリリアントサービスを設立。大阪に本社を置き、スマートフォンアプリ、スマートデバイスの受託開発サービスを中心に、クラウド連携、コンテンツ企画なども手がけ、デジタルサービスプロバイダーとして事業を拡大。2013年にはメガネ型ウェアラブル端末「mirama(ミラマ)」を発表し、国内外から注目を集める。2017年に同社をコグニザント社に売却し経営から退き、2019年5月アバナードに入社。関西オフィスにてデジタルイノベーションを推進しながら、組織構築にも携わる。

TECHBEERは、マイクロソフトテクノロジーのPowerApps、Power BI、Azure IoT HubとRaspBeryPi3B+ を活用し、ITエンジニアによって作られたビールです。

コンセプトは、いかにハードウェアとソフトウェア(IoT・クラウド・AI等)のバージョンだけで安定的に美味しくできるかを追求すること。色々なIoTブルワリーが立ち上がるように、オープンソース化すること。厳密な縛りは設けず、美味しく楽しく実験できること。

それでは実際どのように、「美味しいDX」ことTECHBEERが出来たのか、レシピから紹介していきます。

TECHBEERレシピ【材料・必要なもの】

■ビールの材料
①麦芽シロップ
②イースト菌
③水
④砂糖

■醸造庫の材料
①25mm発泡スチロール板 × 6 (2リットルのペットボトルが入る箱ができるくらい)
②2Lペットボトル × 1
③発泡スチロール用接着剤
④発泡スチロールカッター
※これらは、発泡スチロールでできたクーラーボックスでも代用可能

■用意するハードウェア
①ベース:Raspberry Pi 3 Model B+ × 1
②リレー: Y14H-1C-3DS × 2
③モータードライバー: Cytron MD30C × 1
④汎用整流用ダイオード: 1000V1A 1N4007-B × 2
⑤防水温度センサー: DS18B20 × 1
⑥両面ファン付ペルチェ素子: 12V 6A × 1
⑦スイッチング電源 直流安定化電源: 12V 30A 360W
⑧4.7KΩ抵抗 × 1

■その他必要なRaspberry Pi用周辺機器
①MicroSDカード
②キーボード
③マウス
④ディスプレイ
⑤ジャンパ線
⑥リード線

■ソフトウエア
①Azure
②Power BI
③Power Apps
④Power Automate

■工具
①ラジオペンチ
②ニッパ
③はんだゴテ
④テスタ
など

※以上の準備物の画像は、こちらの記事に詳しく掲載してあります:TECHBEER エッジ側ハードウェア準備編

TECHBEERのレシピ【醸造システム構築】

準備物がそろったら、ビールを醸造管理するための装置を作っていきます。

■工程①:醸造庫をつくる

発泡スチロールを接着剤で貼って(※1)、醸造庫になる枠組みをつくり、「ペルチェ効果(※2)」を活用した、醸造庫内の温度を一定に保つ仕組みを作ります。

※1 発泡スチロールでできたクーラーボックスを活用することで工程を簡素化することも可能です。
※2 ペルチェ素子とは、ある方向に直流電流を流すと素子の上面では吸熱(冷却)、逆に下面では発熱(加熱)する半導体熱電素子の一種。これをペルチェ効果と言います。

【ワンポイントアドバイス】
フィンの横から風が出るので、発泡スチロールに切り込みを入れ、スペースを作っておくのがポイントです。


■工程②:IoTデバイスをつくる

Raspberry Pi(以下、ラズパイ)とブレッドボードをつないで、醸造庫をコントロールする基盤のIoTデバイスを組み立てていきます。

電源を確保し、配線し、ファンとペルチェ素子へ電源供給し…としていくのですが、画像付きの詳しい組み立て方は、「TECHBEER エッジ側制御部分組み立て編」にて紹介しています。

【ワンポイントアドバイス・注意点】
実際にデバイスを組み上げる際は、100V電源接続に注意が必要です。
誤った方法で行うとショートし、やけどや感電、火災の恐れがありますので注意してください。


■工程③:プログラムのインストール

ラズパイのマイクロSDにOSをインストールするなどして、プログラムを構成していきます。

※プログラムならびにインストール方法の詳細は、「TECHBEER エッジ側制御部分組み立て編」にて紹介しています。


■工程④:テクノロジーとの連携

現在稼働中のバージョンでは、「Azure」「Power BI」「Power Apps」を活用して、TECHBEERの仕組みを構築しています。

それぞれの役割を簡単に説明すると、
・温度情報や稼働状況をラズパイから取得し、「Azure」にアップロード
・Azureに取得したデータを「Power BI」で可視化し、状況をモニタリング
・「Power Apps」を経由してラズパイにカメラを設置し、状況をモニタリング
という仕組みにしています。

【ワンポイントアドバイス】
ビールの酵母は生き物なので、単純にクラウドでソフトウェア構築しただけでは制御しきれません。Power Appsを活用し、カメラでモニタリングする仕組みを作っておくと、より安心な構成になります。

▲Azure内の詳細と、システム構成全体像


TECHBEERレシピ【ビール作り】

さて、醸造システムが構築できたら、いよいよビール作りです!


■工程①:一次発酵の準備

2リットルペットボトルから一度水を出し、空のボトルに麦芽シロップを入れ、入るだけの水を戻し入れ、シェイクします。

泡が落ち着いたら次はイースト菌を入れて、再びシェイクします。


■工程②:醸造庫で一次発酵

「醸造システム構築」で作った醸造庫に、①でシェイクしたペットボトルを入れて、発酵を見守ります。


■工程③:二次発酵

②で溜まった澱を濾過して取り除き、砂糖を加えて、再び醸造庫に戻して二次発酵させます。


■工程④:完成!

二次発酵を終え、液体が透き通ったら完成です。
瓶詰めやラベル作りまですると、かなりビール感が増してテンションも上がるので、ぜひやってみてください。


気になるTECH BEERの味は?

——TECH BEERのレシピを教えてくださってありがとうございます!気になるのは、「美味しいDX」ができたのか?というところですが、ビールの味はいかがでしたか?

実は僕、お酒が飲めないんですよ(笑)
それに、アルコール度数が高いビールを作ると法律に触れる可能性があるので、今回作ったのは、アルコール度数1%以下の清涼飲料水に位置付けられるビールです。

でも味見してみると、香りも味も良かった。本当にアルコール度数は1%?と思うほど、ちゃんとしたビールの味で、お酒を飲む同僚からは、なかなかの評価をもらいましたよ!

エンジニアの僕としては、醸造時期をずらした方がもっと面白かったんじゃないかな?とは思っていますが。

——醸造時期をずらす?

そうです。たまたまなんですが、醸造したのが9月。ビール醸造に最適な時期だったんです。ですから、そこまでテクノロジーの力を借りなくても、安定して発酵できてしまったんですよね。
せっかくペルチェ素子が稼働し温度をコントロールできるようにしていたのに、実際にはあまり使われなかったので、ちょっと惜しいことをしたなぁと(笑)

それにしても、「オクトーバーフェスト」とはよく言ったものですよね!ビールに最適な10月の時期だからこそのイベントなんだと、自分でビールを作ってみてよくわかりました。

もっとビールに近づけるためには、泡をどう作るかなど改良したい点は多々あるので、興味を持っていただいた方には、ぜひ声をかけてもらいたいです。

TECHBEERで得たものとは

——改めて、TECHBEERのプロジェクトを振り返ってみていかがですか?

得たものは大きかったですし、手応えもありました。

一番の成果は、テクノロジーと自分たちの技術を使えば、日々の業務以外でも楽しいことができるのがわかったことです。
もちろんお客様のサービスを実現していくのはすごく楽しいですが、自分たちが持っているITの技術を使って「何か新しいことができるんじゃないか?」と、考えを練って実行することは、また違う楽しさと面白さがあります。

それに、実際にビール作りで使った技術というのは、お客様のプロジェクトでも使うものばかり。プロジェクトに参加してくれた若手メンバーも、ビール作りで得たノウハウを実業務に活かせていると聞いているので嬉しいです。

僕自身も、マイクロソフトのPower Platformがいかに素晴らしいツールであるかも実際に使うことで体感できましたから、実務の糧になっているのは、言うまでもありません。

TECHBEERは、やっていいことだらけでしたよ。

——お話を聞いているだけで、プロジェクトを楽しんでいらっしゃるのがすごく伝わってきます!

もう、発酵によってペットボトルが爆発しそうなだけで、テンション上がりまくって最高に楽しいんですよ。楽しみながら学べるって、最高です。

そんなプロジェクトの過程で、アバナードの良さにも改めて気づきましたね。

——どんな会社の良さを感じたのですか?

面白いことをどんどん許容するところは、本当にすごいと思います。

だって、プロジェクトを進めるために最初に申請した企画名は「密造酒製造」ですよ?いかにも怪しいプロジェクトなのにすぐに承認してくれて、その上、「ラズパイ必要なら会社で買うよ?」なんて気軽にサポートしてくれるんです。700人規模のグローバル企業でそんなことができるって、すごいと思いませんか?

しかも日本だけじゃなくて、「めっちゃ面白いことやってるやん!」ってグローバル全体で盛り上がっちゃって。

「面白いことはどんどんやろう!」と、誰一人として反対しない会社なんです。エンジニアにとって、これほど嬉しい環境はないです。

デジタルイノベーションを「体感」するために

——ところで、なぜビール醸造をはじめようと思ったのですか?

デジタルイノベーション自体は広まっていますが、ビジネス領域がほとんど。本当の意味で我々の生活に直結するようなデジタルイノベーションって、何なんだろう。このような疑問を僕は以前から持っていましたが、答えをはっきり言う人はいませんでした。

あるとき仲間と飲んでいた際に、ふとアイデアが湧いたんです。テクノロジーの力でビールを醸造したら、リアルに体感できる“美味い”デジタルイノベーションになるのではないかと。

それが、TECHBEERのはじまりでした。

でも僕はお酒が飲めないし、ビールの味や醸造に関してはまったくの素人。
いかに上質なビールを醸造するかを目的とするのではなく、IoTの力で、どれだけ「美味しく」なるかに着目するプロジェクトにしました。

——ITエンジニアならではの視点ですね!

そうして、発酵状態をテクノロジーの力で制御して「美味しくする」ことにフォーカスし、DXを「楽しく」「体験できる」プロジェクトを開始したという背景があります。

今回のTECHBEERに続き、次は東京で「トカゲ飼育」のプロジェクトが始まっています。IoTを活用してトカゲがう●ちしたかどうか、ニオイを検出する…これまた面白いことがはじまっていますよ。

TECHBEERコミュニティをひろげ、面白いことをする仲間を増やしたい

——今後、TECHBEERプロジェクトはどうされるのですか?

もちろん継続していきますよ!

まずひとつは、AIによる機械学習を取り入れて、さらなる高度なコントロールシステムを作りたいと思っています。面白そうだからやりたい!と、すでにAIチームのメンバーが加わってくれているので、今後の精度向上をぜひとも楽しみにして欲しいです。

もう一つは、TECHBEERコミュニティづくりです。

これまでビールのイベントといえば、ITを必要としない季節に行うオクトーバーフェストが定番でしたが、ビール醸造にITが必要な季節にIT企業だけが集まってコンテストやイベントをやれたら面白くないですか?そんな風に、TECHBEERコミュニティをひろげていきたいと考えているところです。

——最後に、TECHBEERに取り組むアバナードに興味を持ってくれた方へ、メッセージをお願いします。

アバナードは、テクノロジーのことが好きで、関心や好奇心が強いメンバーが多くいる会社です。
日頃から仕事・プライベート関係なく、時間帯も関係なく、技術のことに関して連絡が来たりします。今回のTECHBEERプロジェクトもいい例です。

そのくらいテクノロジーに熱心な人が集まっていて、新しいことに取り組みたければみんなが背中を押してくれます。

仕事では大規模開発にも携われるし、コンサルティングスキルを学べる環境もあります。しかも、住んでいる場所は問いません。全国47都道府県どこに住んでいても、アバナードの一員になれます。

少しでも興味を持ってくれた方、アバナードで一緒に面白いことをやっていきましょう!お待ちしています。

TECHBEERやテクノロジーについてこんなにも楽しく語る杉本さんは、実は、GoogleやSonyなどに先駆けて2013年にメガネ型ウェアラブル端末「mirama(ミラマ)」を発表し、国内外の注目を浴びたベンチャー企業の創業者であり、敏腕技術者。とてもユニークな経歴の持ち主です。

そんな杉本さんのアバナード参画ストーリーはこちら:躍進の理由はどこにあるか —— 業界を牽引してきた技術屋であり経営者が見たアバナード

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